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地球から次々に上がる小さなカプセル(タンカー)が軌道上の大きなカプセル(デポ)に推進剤を送り、デポとつながった着陸船から月へ向かう破線が延びている概念図

Hall 00 · Space Basics

Orbital Refueling

Orbital Refueling宇宙で燃料を補給する

軌道上での推進剤補給とは、軌道に乗るまでにほぼ使い切った燃料と酸素を、宇宙で別の機体から受け取って満タンに戻し、月や火星へ向かえるようにするための技術です。

軌道に乗った時点でロケットの推進剤はほぼ空になるため、月へ向かう Starship は地球の低い軌道で推進剤を補給し直す計画です。NASA 監察総監室によると、貯蔵デポに10機を超えるタンカーが推進剤を集め、着陸船がそこで満タンにしてから月へ向かいます。

公開日

How it works

仕組み

ロケットは、軌道に乗るまでのあいだに、積んできた推進剤(燃料と、それを燃やすための酸素)のほとんどを使い切ってしまいます。理由は「ロケットはなぜ『ほぼ燃料』なのか」の記事と軌道の記事で見たとおりで、軌道に乗るには、とてつもない横向きの速さが必要だからです。たとえるなら、高速道路の入口の坂道で思いきり加速して本線に合流したら、その時点でガソリンタンクがほとんど空になっていた車のようなものです。本線には乗れましたが、目的地まではとても走れません。

月へ向かうには、軌道に乗ったあと、さらにもう一度大きく加速する必要があります。そこで考えられたのが、軌道の上で推進剤を補給し直すという方法です。飛行機どうしが空中でホースをつないで燃料を受け渡す「空中給油」に近い考え方で、英語では orbital refueling(軌道上での推進剤補給)や propellant transfer(推進剤移送)と呼ばれます。

NASA 監察総監室(OIG)の2026年3月の報告書によると、SpaceX は月へ向かうために、Starship を3つの役割に分けて使う計画です。宇宙飛行士を月面に降ろす「着陸船」、地球の低い軌道へ推進剤を運ぶ「タンカー(給油船)」、そして運ばれてきた推進剤をためておく「貯蔵デポ(燃料基地)」です。どれも見た目の元になっているのは同じ Starship です。

Figure

月へ向かう Starship の3つの役割

着陸船

  • 宇宙飛行士を月面に降ろす
  • デポで満タンにしてから月へ

タンカー

  • 地上から推進剤を運ぶ
  • 10機を超える数が必要とされる

貯蔵デポ

  • 軌道上で推進剤をためておく
  • タンカーが次々にドッキングする
出典:NASA 監察総監室の報告書(2026年3月)

手順は次のとおりです。まず貯蔵デポを地球の低い軌道へ打ち上げます。報告書によると、そのあと10機を超えるタンカーが推進剤を積んで次々と打ち上げられ、1機ずつデポに近づいてドッキングし、推進剤を移していきます。NASA はこれを propellant aggregation(推進剤の集積)と呼んでいます。デポが十分に満たされたら、着陸船が打ち上げられてデポとドッキングし、満タンにしてから月を回る軌道へ向かいます。上の図は、この流れを左から右へ描いたものです。下から次々に上がるタンカーが軌道上のデポに推進剤を集め、満タンのデポから着陸船が受け取って月へ向かいます。

Figure

補給の流れ(NASA 監察総監室の報告書による計画)

  1. 貯蔵デポを低い軌道へ打ち上げる

  2. 10機を超えるタンカーが次々に打ち上げられる

    1機ずつデポにドッキングして、推進剤を移していく。

  3. 着陸船を打ち上げ、デポとドッキング

    満タンになるまで推進剤を受け取る。

  4. 満タンの着陸船が月へ向かう

いちばん上の図は、この流れを左から右へ描いたものです。

この計画の数字を見ると、規模の大きさが分かります。同じ報告書によると、推進剤の集積は宇宙飛行士の打ち上げより200日以上前に始まり、SpaceX は6日に1回のペースでタンカーを打ち上げることを目標にしています。タンカーはテキサスの Starbase と、フロリダの NASA ケネディ宇宙センターの両方から打ち上げる計画です。満タンになった着陸船は、月を回る軌道で最大100日間、宇宙飛行士の到着を待てるとされています。ただし、必要なタンカーの数を SpaceX は正式に公表していません。報道によれば、SpaceX の担当者は2024年1月に「おおまかな推測」として「10回程度」と話しており、見積もりにはまだ幅があります。

Figure

計画の規模

必要とされるタンカー
10機超
宇宙飛行士の打ち上げより前に集積を始める
200日以上前
タンカーの打ち上げペースの目標
6日に1回
月の軌道で着陸船が待てる期間
最大100日
出典:NASA 監察総監室の報告書(2026年3月)。必要なタンカーの数を SpaceX は正式に公表していません。

難しさの1つ目は、推進剤がとても冷たい液体であることです。Starship は液体メタンと液体酸素を使います。NASA の技術資料によると、メタンが沸騰する温度は111.7K、つまりおよそマイナス162度です。冷凍庫から出した氷が少しずつ溶けるように、宇宙でもタンクにはまわりから熱が入り込み、液体はゆっくりと気体に変わっていきます。NASA は、こうして上がったタンクの圧力を逃がすために気体を捨てることを「ボイルオフ(boil-off)」と説明しています。長く待つほど、せっかく運んだ推進剤が減っていくのです。

2つ目は、軌道の上には「下」がないことです。軌道の記事で見たように、軌道にある宇宙船は中身ごと落ち続けているので、タンクの中の液体は底にたまらず、ふわふわと広がってしまいます。ペットボトルを傾けても、ジュースがコップに落ちてこない状態を想像してください。NASA の研究者の論文によると、こうなると液体を送るはずの配管に気体を吸い込んだり、気体を逃がすはずの管から液体が出てしまったりするおそれがあります。そこで、エンジンや小さな噴射で宇宙船をそっと押し続け、液体をタンクの片側に寄せてから移す方法が考えられています。これを「セトリング(settling)」と呼びます。

では、どこまで実際に試されているのでしょうか。2024年3月14日の Starship 飛行3では、1機の宇宙船の中で、推進剤を別のタンクへ移す実証が行われました。NASA の資料によると、宇宙船を押して液体を寄せる操作をしたうえで、液体酸素をタンクからタンクへ数トン移したもので、NASA の技術開発プログラム(Tipping Point)の一環です。NASA は当時「移送の実証作業は完了した」と発表し、担当者は「軌道上でこの規模の極低温推進剤を貯めて移すことは、これまで試みられたことがない」と述べています。ただし NASA 自身が「船どうしではない」と明記しているとおり、これは同じ機体の中での移送でした。

本番に必要なのは、2機の Starship を軌道でドッキングさせ、船から船へ推進剤を移すことです。OIG の報告書では、この大規模な船どうしの移送試験は2025年3月に予定されていたものが2026年3月へ12か月遅れたとされ、新しい第3世代の Starship を使うことになっていました。その後、Starship が初めて軌道に到達したのは2026年9月28日の飛行14です。編集部が確認した範囲では、2026年10月2日時点で、2機のあいだでの推進剤移送が行われたという公式の発表は見当たりません。SpaceX は2026年9月15日の発表で、飛行14から軌道飛行に移り、最初の軌道上での推進剤移送などの新しい飛行試験を行っていくとしています。また V3 の機体には、ほかの Starship とドッキングするための装置と、船どうしで推進剤を移すための接続口が加えられたと説明しています。

Why it matters

なぜ重要か

Starship で月に降りる計画は、この補給が成功することを前提に組まれています。NASA は2024年11月の記事で、SpaceX は地球を回る軌道で推進剤の積み込みを終え、満タンの着陸船を月へ送り出す計画だと説明しています。OIG によると、NASA の着陸船プログラムは極低温の推進剤の移送を「最も重大な技術的課題の1つ」と位置づけ、関連技術が間に合わないことを最上位のリスクの1つとして監視しています。

アルテミス計画のスケジュールにも関わります。NASA は2026年2月27日、アルテミス3号を2027年に地球の低い軌道で行う試験飛行に変え、月面着陸は2028年のアルテミス4号で目指すと発表しました。アルテミス3号では、宇宙船オリオンが着陸船の試験機とドッキングする練習などを行う計画です。報道によれば、この試験飛行には軌道上での補給は必要ありません。編集部の見方では、月面着陸の前に船どうしの補給をどこまで確かめられるかが、これからの最大の注目点の1つです。

補給は、打ち上げの回数をこなせるかどうかの試験でもあります。6日に1回というペースでタンカーを打ち上げるには、機体を何度も再使用し、発射台もすぐに使える状態に戻す必要があります。OIG は、SpaceX が必要とされる12〜24日での発射台の再整備をまだ実証していないと指摘しています。

この技術は月だけのものではありません。NASA の極低温流体管理プロジェクトは、月から火星へと向かうにつれて、冷たい推進剤を宇宙で扱う期間が「数か月から数年」に延びると説明し、宇宙で使える推進剤の貯蔵・移送技術は、検討されているすべての計画に必要だとしています。

Compared

他との違い

飛行機の空中給油と比べると、軌道上の補給には大きな違いがあります。空中では重力があるので、燃料はホースの中を下へ流れてくれます。軌道上では、2機とも軌道の記事で見たものすごい速さで飛びながらぴったり並び、そのうえ「下」がない中で液体を寄せて送らなければなりません。さらに、運ぶ液体はとても冷たく、待っているあいだにも少しずつ気体になっていきます。

「推進剤移送」という同じ言葉でも、段階があります。飛行3で行われたのは、1機の中でのタンクからタンクへの移送です。次の段階は2機の船どうしでの移送で、本番の計画では、さらに10機を超えるタンカーからデポへ推進剤を集め、それを着陸船へ移すことになります。ニュースで「推進剤移送に成功」と見かけたら、どの段階の話なのかを確かめると理解しやすくなります。

Figure

「推進剤移送」の3つの段階

  1. 実施済み1機の中で、タンクからタンクへ

    2024年3月の飛行3で実証。

  2. これから2機の Starship のあいだで

    編集部が確認した範囲では、2026年10月2日時点で公式の発表はまだない。

  3. 本番多数のタンカー → デポ → 着陸船

    月面着陸の前提になる流れ。

軌道上での補給を計画しているのは SpaceX だけではありません。OIG によると、アルテミス計画のもう1つの着陸船である Blue Origin の Blue Moon も、軌道上で推進剤をためる機体と、そこへ推進剤を運ぶ機体を使う計画で、極低温の推進剤の扱いが最も大きな技術課題の1つとされています。

FAQ

よくある質問

最初から月まで行けるだけの燃料を積んだ、もっと大きなロケットを作ればよいのでは?

ロケットは、積む燃料を増やすほど、その燃料を持ち上げるためにさらに燃料が必要になるという性質があります(詳しくは「ロケットはなぜ『ほぼ燃料』なのか」の記事を参照)。編集部の見方では、Starship の計画は、1機をどこまでも大きくする代わりに、同じ機体を何度も打ち上げて軌道上で推進剤を集めるという考え方をとっています。打ち上げを繰り返せる再使用ロケットだからこそ選べる方法だといえます。

月へ行くには、タンカーを何回打ち上げるのですか?

SpaceX は正式な回数を公表していません。NASA 監察総監室の2026年3月の報告書は「10機を超えるタンカー」と書いており、報道によれば SpaceX の担当者は2024年1月に「おおまかな推測で10回程度」と話しています。また同じ報告書は、無人の着陸実証では機体が軽くなるぶん必要なタンカーの数が減り、推進剤を集める一連の流れが有人飛行の前に完全には試されないことになると指摘しています。

宇宙での推進剤の補給は、もう成功したのですか?

1機の宇宙船の中でタンクからタンクへ移す実証は、2024年3月の飛行3で行われ、NASA は作業が完了したと発表しています。一方、2機の Starship のあいだでの移送は、編集部が確認した範囲では2026年10月2日時点でまだ公式に発表されていません。最新の状況は Starship ホールの「最新状況」と Launch Database で確認できます。

なぜタンカーから着陸船へ直接入れずに、いったんデポにためるのですか?

NASA 監察総監室の報告書では、タンカーがデポに推進剤を集め、最後に着陸船がデポから受け取る流れが説明されています。その理由を SpaceX は詳しく公表していませんが、編集部の見方では、宇宙飛行士が乗る着陸船は満タンになる直前に打ち上げてドッキングを1回で済ませ、そのあいだの数多くのタンカーの打ち上げはデポが引き受ける、という役割分担と考えられます。

待っているあいだに推進剤が減ってしまうなら、どうするのですか?

タンクの断熱を高めるほか、冷凍機のような装置(クライオクーラー)で冷やし、ボイルオフを減らす技術が研究されています。NASA は、気体を何度も捨てていると長期間の保管で大量の推進剤が失われると説明しています。推進剤を集めるのに数か月かかる計画では、どれだけ減らさずに保てるかが重要になります。

Sources / 出典

  1. 01
    Starship Flight 3(SpaceX)(外部サイト)

    SpaceX · 公式 · 一次情報 · 2024.03.14 · 参照 2026.09.30

  2. 02
    Starship Flight 14(SpaceX)(外部サイト)

    SpaceX · 公式 · 一次情報 · 2026.09.28 · 参照 2026.10.02

  3. 03
    Starship to Orbit(SpaceX Updates)(外部サイト)

    SpaceX · 公式 · 一次情報 · 2026.09.15 · 参照 2026.10.02

  4. 04
    Introducing Starship V3(SpaceX Updates)(外部サイト)

    SpaceX · 公式 · 一次情報 · 参照 2026.10.02

  5. 05
    NASA's Management of the Human Landing System Contracts(IG-26-004, NASA 監察総監室)(外部サイト)

    NASA Office of Inspector General · 宇宙機関 · 一次情報 · 2026.03.10 · 参照 2026.10.02

  6. 06
    NASA, SpaceX Illustrate Key Moments of Artemis Lunar Lander Mission(NASA)(外部サイト)

    NASA · 宇宙機関 · 一次情報 · 2024.11.20 · 参照 2026.10.02

  7. 07
    NASA Artemis Mission Progresses with SpaceX Starship Test Flight(NASA)(外部サイト)

    NASA · 宇宙機関 · 一次情報 · 2024.03.14 · 参照 2026.10.02

  8. 08
    2020 NASA Tipping Point Selections(NASA)(外部サイト)

    NASA · 宇宙機関 · 一次情報 · 2020.10.14 · 参照 2026.10.02

  9. 09
    Zero Boil-Off Tank (ZBOT)(NASA Glenn Research Center)(外部サイト)

    NASA · 宇宙機関 · 一次情報 · 参照 2026.10.02

  10. 10
    NASA Adds Mission to Artemis Lunar Program, Updates Architecture(NASA)(外部サイト)

    NASA · 宇宙機関 · 一次情報 · 2026.02.27 · 参照 2026.10.02

  11. 11
    How NASA's Artemis III Lander Test Will Pave Way for Moon Landings(NASA)(外部サイト)

    NASA · 宇宙機関 · 一次情報 · 2026.07.15 · 参照 2026.10.02

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  13. 13
  14. 14
    A Densified Liquid Methane Delivery System for the Altair Ascent Stage(NASA/TM-2010-216246)(外部サイト)

    NASA Technical Reports Server · 技術資料 · 一次情報 · 参照 2026.10.02

  15. 15
    Starship Achieves Orbit for the First Time(SpacePolicyOnline)(外部サイト)

    SpacePolicyOnline · 報道 · 2026.09.28 · 参照 2026.10.02

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