Hall 00 · Space Basics
Mars Transfer
Mars Transfer火星への飛び方
地球と火星は太陽のまわりを違う速さで回っているため、少ない燃料で火星に届く「位置関係」がそろうのは約26か月に1度しかなく、火星行きの計画はすべてこのリズムに合わせて組み立てられています。
地球と火星は太陽のまわりを違う速さで回っているため、少ない燃料で火星に届く位置関係は約26か月に1度しかそろいません。宇宙船は「今の火星」ではなく「着くころの火星」をねらって、太陽のまわりを半周ほど回りこみます。
公開日
How it works
仕組み
まず、地球と火星がどう動いているかを確認しましょう。どちらも太陽のまわりを回る惑星ですが、回る道(軌道)の大きさが違います。NASA のデータでは、太陽からの平均距離は地球が約1億5000万km、火星が約2億2800万kmで、火星は地球の約1.52倍外側を回っています。この太陽と地球の平均距離を「1天文単位(AU)」と呼ぶので、火星はおよそ1.52天文単位のところにいることになります。
外側を回る火星は、1周する道のりが長いうえに、進む速さもゆっくりです。地球は秒速約29.8km、火星は秒速約24.1kmで進み、1周にかかる日数は地球が約365日、火星が約687日です。陸上競技のトラックで、内側のレーンを速いランナー(地球)、外側のレーンをゆっくりしたランナー(火星)が走っている様子を思い浮かべてください。NASA はこれを「地球が内側のコースを走り、約26か月に1度、火星を周回遅れにする」と表現しています。地球が火星に追いついて追い越すまでの周期は約780日、つまり約26か月です。
Figure
地球と火星の比較
地球
- 太陽からの距離:約1億5000万km(1天文単位)
- 速さ:秒速約29.8km
- 1周:約365日
火星
- 太陽からの距離:約2億2800万km(約1.52天文単位)
- 速さ:秒速約24.1km
- 1周:約687日
では、火星へはどう飛べばよいのでしょうか。ポイントは「今、火星がいる場所」ではなく「宇宙船が着くころに火星がいる場所」をねらうことです。トラックの内側レーンを走りながら、外側レーンを走る友だちにボールを投げる場面を想像してください。友だちの今の位置に投げると、ボールが届くころには友だちは先に進んでいて、受け取れません。友だちが走っていく先に向けて投げる必要があります。
宇宙船も同じです。ロケットで地球の軌道から外側へ押し出された宇宙船は、そのあとエンジンを止めて、太陽のまわりを回る細長い楕円の軌道を、惰性で進んでいきます。JPL(NASA ジェット推進研究所)の教材では、いちばん燃料の少ない飛び方として、地球の軌道と火星の軌道にちょうど接する楕円の「半分」をたどる経路を紹介しています。考えた人の名前から「ホーマン遷移軌道(Hohmann transfer)」と呼ばれる飛び方です。軌道そのものの基本は「軌道の記事」で紹介しています。
この楕円の半分をたどるのに、計算上は約259日かかります。その間に火星も先へ進むので、出発の時点で火星は地球より少し先にいなければなりません。JPL の教材によると、その「ちょうどよい位置」は、太陽から見て火星が地球より約44度先にいるときです。宇宙船が太陽の反対側まで回りこんで火星の軌道に届いたとき、そこにちょうど火星がやってくる、という仕掛けです。上の図では、塗りつぶした点が出発時、輪郭だけの点が到着時の地球(青)と火星(灰色)の位置で、破線が宇宙船の通り道です(軌道は円で近似し、惑星の大きさは誇張しています)。
この「火星が約44度先にいる」という位置関係は、地球が火星を追い越す周期に合わせて約26か月に1度しかめぐってきません。この時期を外すと、火星は宇宙船の着く場所にいないか、そこへ届くためにずっと多くの燃料が必要になります。NASA は、約26か月に1度、地球と火星が最もエネルギー効率のよい旅ができる並び方になり、ほかの時期に比べて少ない力で火星へ行けると説明しています。そのため、火星探査機の打ち上げは、この時期に合わせて計画されます。
Figure
火星行きのチャンスを決める数字
- チャンスがめぐってくる間隔
- 約26か月
- 出発時に火星が地球より先にいる角度
- 約44度
- 楕円の半分をたどる計算上の日数
- 約259日
- パーサヴィアランスの打ち上げ可能期間
- 約3週間
チャンスの期間そのものも長くはありません。2020年に打ち上げられた NASA の探査車パーサヴィアランスの場合、打ち上げ可能な期間(打ち上げ期間)は7月20日から8月11日までの約3週間でした。実際には7月30日に打ち上げられ、2021年2月18日に火星に着陸しています。約7か月の旅です。NASA の別の解説では、地球から火星への巡航はおよそ200日続くとされています。教材の約259日は理想化した計算で、実際の旅の長さは、打ち上げの年や選んだ経路によって変わります。
旅の道のりは、地球と火星の「直線距離」とは一致しません。NASA のデータでは、地球と火星の距離は近いときで約5500万km、遠いときは約4億km まで変わります。ところが、パーサヴィアランスが打ち上げ期間の初日に出発した場合の飛行距離は、約4億9700万kmと見積もられていました。宇宙船はまっすぐ火星へ向かうのではなく、太陽のまわりを大きく弧を描いて回りこむからです。
Figure
地球と火星の距離と、実際の飛行距離
- いちばん近いとき約5500万km
- いちばん遠いとき約4億km
- パーサヴィアランスの飛行距離(見積もり)約4億9700万km
火星に着いたあとも、地球との距離は大きな壁になります。電波は光と同じ速さで進みますが、それでも NASA によると、地球と火星の位置関係によって片道4分から20分かかります。火星から「助けて」と連絡して返事が届くまで、最大で40分ほど待つ計算です。さらに約2年に1度、地球から見て火星が太陽のほぼ真裏に入る「合(ごう)」の時期には、太陽から吹き出すガスが電波を乱すおそれがあるため、NASA は火星の探査機への指令の送信をしばらく止めています。
Why it matters
なぜ重要か
火星行きのリズムは、帰り道にもそのまま当てはまります。火星から地球へ少ない燃料で戻れる位置関係も、やはり約26か月ごとにしかそろいません。NASA によると、帰りに最適な並び方を待つと、宇宙飛行士は火星で1年以上待機することになり、往復のミッション全体は3年を超えます。NASA は、行き帰りの時間をできるだけ2年に近づけるため、原子力を使った推進技術なども検討しています。月までの旅が約3日なのに対し、火星を目指す宇宙飛行士はおよそ3年、地球を離れることになるのです。
Figure
火星の往復は3年がかり(NASA の説明)
地球を出発
火星への旅
パーサヴィアランスの場合は約7か月。
火星で帰りのチャンスを待つ
1年以上。
地球へ帰る旅
往復のミッション全体
3年を超える。
SpaceX にとっても、この26か月のリズムは計画の前提です。報道によれば、イーロン・マスク氏は2025年5月、無人の Starship を2026年末の火星行きの時期に送れる可能性を「五分五分」と述べ、その条件として地球の軌道上で燃料を補給する技術の実証などを挙げていました。その後、報道によれば、マスク氏は2026年2月に X への投稿で、火星へは「惑星の並びがそろう26か月ごとにしか行けず、旅には6か月かかる」一方、月へは10日ごとに打ち上げられて2日で着くと述べ、当面は月を優先し、火星の都市づくりは5〜7年ほどで始めたいとしています。同じ報道は、2026年の無人火星ミッションは延期されたと伝えています。一方、SpaceX は2026年5月、Starship による初めての有人の惑星間飛行として、地球と月の外へ出て火星のそばを通過し、地球に戻る約2年間のミッションを計画していると発表しました。火星に降りずに通り過ぎて帰ってくる飛び方でも、出発の時期は地球と火星の位置関係に縛られます。
なぜ燃料補給が必要なのでしょうか。「軌道の記事」で見たように、ロケットは地球の軌道に上がるだけで、積んできた推進剤の大部分を使ってしまいます。Starship がそこからさらに加速して火星への楕円軌道に乗るには、軌道上でタンクを満たし直す必要があります。NASA によると、月着陸船として使う Starship についても、SpaceX は地球の軌道上で推進剤を積み込んでから月へ送り出す計画です。くわしくは「宇宙で燃料を補給する」の記事で解説しています。
編集部の見方では、火星計画の予定を読むときは「いつの打ち上げ時期をねらっているのか」を見るのが近道です。1回の時期を逃すと、次のチャンスは約2年後になります。ロケットの開発が数か月遅れるだけで、火星への到着は2年単位で後ろへずれうる、ということです。
Compared
他との違い
月と火星の違いは、距離だけではありません。月は地球のまわりを回っているので、出発のチャンスはひんぱんにあり、旅も数日で済みます。火星は地球とは別に太陽のまわりを回っているため、チャンスが約26か月に1度に限られ、旅も半年以上かかります。「いつでも行ける場所」と「暦に合わせて行く場所」の違いだといえます。
Figure
月と火星
月
- 地球のまわりを回っている
- 出発のチャンスはひんぱん
- 旅は数日
火星
- 地球とは別に太陽のまわりを回っている
- チャンスは約26か月に1度
- 旅は半年以上
「打ち上げウィンドウ(打ち上げ可能な時間帯)」という言葉は、場面によって長さが違います。火星の場合は、約26か月ごとにめぐってくる数週間の期間全体を指すことがあり、パーサヴィアランスではそれが約3週間でした。地球を回る衛星の打ち上げでは、ずっと短い、その日のうちの時間帯を指すのが一般的です。
燃料をたくさん使えば、火星への旅を短くすることはできます。ただ、その分だけ加速にも、火星に着いてからの減速にも多くの推進剤が必要になります。最も燃料を節約できる飛び方は、時間がかかり、出発の時期も限られる、という関係にあります。
FAQ
よくある質問
地球と火星がいちばん近づいたときに出発すれば、いちばん早く着くのではありませんか?
いいえ。宇宙船は火星へまっすぐ飛ぶのではなく、太陽のまわりを半周ほど回りこんで火星の軌道に届きます。そのため、出発するのは地球と火星が最も近づく時期より少し前、火星が地球よりやや先にいる時期です。いちばん近い時期は、飛んでいる途中に訪れます。
火星までは何km あるのですか?
地球と火星の距離は一定ではなく、NASA のデータでは近いときで約5500万km、遠いときで約4億km です。ただし宇宙船が実際に飛ぶ道のりは弧を描くため、直線距離より長くなります。パーサヴィアランスの場合、約4億9700万km と見積もられていました。
次に火星へ行けるのはいつですか?
火星行きのチャンスは、前のチャンスから約26か月後にめぐってきます。報道では2026年の終わりごろにチャンスがあるとされていました。正確な期間は、ミッションごとの経路や必要な速さによって変わるため、各機関や会社の発表で確認するのが確実です。
火星にいる人と、電話のように話すことはできますか?
むずかしいです。電波が片道4分から20分かかるため、話しかけてから返事が届くまで、8分から40分ほど待つことになります。そのため、火星での作業は地球からの指示を待たずに、現地で判断できるようにしておく必要があります。
Sources / 出典
- 01First Starship Interplanetary Human Spaceflight Mission(SpaceX Updates)(外部サイト)
SpaceX · 公式 · 一次情報 · 2026.05.21 · 参照 2026.10.02
- 02Mars Mission Timeline(NASA Science)(外部サイト)
NASA · 宇宙機関 · 一次情報 · 参照 2026.10.02
- 03Mars 2020 Perseverance Launch Press Kit: Mission(NASA/JPL)(外部サイト)
NASA Jet Propulsion Laboratory · 宇宙機関 · 一次情報 · 参照 2026.10.02
- 04Mars 2020: Perseverance Rover(NASA Science)(外部サイト)
NASA · 宇宙機関 · 一次情報 · 参照 2026.10.02
- 05Let's Go to Mars! Calculating Launch Windows(NASA/JPL Education)(外部サイト)
NASA Jet Propulsion Laboratory · 宇宙機関 · 一次情報 · 参照 2026.10.02
- 06Mars Facts(NASA Science)(外部サイト)
NASA · 宇宙機関 · 一次情報 · 参照 2026.10.02
- 07How an Atomic Clock Will Get Humans to Mars on Time(NASA)(外部サイト)
NASA · 宇宙機関 · 一次情報 · 参照 2026.10.02
- 08Hazard: Distance From Earth(NASA Human Research Program)(外部サイト)
NASA · 宇宙機関 · 一次情報 · 参照 2026.10.02
- 09Nuclear Propulsion Could Help Get Humans to Mars Faster(NASA)(外部サイト)
NASA · 宇宙機関 · 一次情報 · 参照 2026.10.02
- 10What's Mars Solar Conjunction, and Why Does It Matter?(NASA/JPL)(外部サイト)
NASA Jet Propulsion Laboratory · 宇宙機関 · 一次情報 · 参照 2026.10.02
- 11NASA, SpaceX Illustrate Key Moments of Artemis Lunar Lander Mission(NASA)(外部サイト)
NASA · 宇宙機関 · 一次情報 · 2024.11.20 · 参照 2026.10.02
- 12Mars Fact Sheet(NASA Space Science Data Coordinated Archive)(外部サイト)
NASA Goddard Space Flight Center · 技術資料 · 一次情報 · 参照 2026.10.02
- 13Musk says 50-50 chance of sending uncrewed Starship to Mars by late 2026(Al Jazeera)(外部サイト)
Al Jazeera · 報道 · 2025.05.30 · 参照 2026.10.02
- 14Elon Musk shelves Mars plans and shifts focus to city on the Moon(Euronews)(外部サイト)
Euronews · 報道 · 2026.02.11 · 参照 2026.10.02
- 15In a reversal, SpaceX prioritizes 'city' on the moon over Mars project, Musk says(NBC News)(外部サイト)
NBC News · 報道 · 参照 2026.10.02
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