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同じ高さの2本の柱。左は推進剤が9割、構造とエンジンが1割弱、荷物が上端のごく薄い帯。右は Falcon 9 で、荷物が上端の約4%の帯になっている

Hall 00 · Space Basics

Propellant

Propellant推進剤とロケット方程式

ロケットが「ほぼ燃料」なのは、燃料を増やすとその燃料を持ち上げるための燃料もまた必要になり、必要な量が雪だるま式にふくらんでしまうからです。

軌道へ向かうロケットは、重さのおよそ9割が推進剤で、荷物は数%にすぎません。燃料を運ぶための燃料が雪だるま式に増えるこの関係が、段分離や再使用の難しさを決めています。

公開日

How it works

仕組み

打ち上げの映像で見る巨大なロケットは、その大部分が推進剤の入ったタンクです。推進剤とは、燃やす燃料と、それを燃やすための酸素(酸化剤)を合わせた呼び名です。NASA の入門解説では、軌道へ向かうロケットは重さの約90%が推進剤で、機体の構造、エンジン、荷物をすべて合わせても残りの約10%、荷物だけなら打ち上げ時の重さの約1%にとどまると説明しています。NASA の別の解説でも、どれほど工夫して効率よく作ったロケットでも、重さのおよそ85%は燃料だと紹介されています。

SpaceX の公表値で見てみましょう。Falcon 9 は打ち上げ時の重さが549,054kg(約549トン)で、低い軌道へ運べる荷物は22,800kg(22.8トン)です。計算すると、荷物は全体の約4%。言い換えると、1トンの荷物を軌道へ届けるために、およそ24トンのロケットを打ち上げていることになります。上の図の左側は NASA の計算例の内訳(推進剤90、構造とエンジン9、荷物1)を、右側は Falcon 9 の荷物の割合(約4%)を、それぞれ同じ高さの柱で表したものです。

Figure

Falcon 9 の重さと、運べる荷物

打ち上げ時の重さ
約549トン
低い軌道へ運べる荷物
22.8トン
全体に占める荷物の割合
約4%
荷物1トンあたりに打ち上げるロケットの重さ
約24トン
重さと荷物は SpaceX の公表値。割合と1トンあたりは編集部の計算です。

なぜこれほどの燃料が必要なのでしょうか。理由は、ロケットの本当の仕事が「高く上がること」ではなく「速くなること」だからです。軌道の記事で見たように、軌道に乗るには横向きのとても大きな速さが必要です。NASA の入門解説によると、高度100マイル(約160km)の円軌道を回るのに必要な速さは時速1万7478マイル。計算すると時速約2万8000km、秒速にして約7.8kmです。

ここで、ロケットならではの悩みが生まれます。速くなるために燃料を積むと、ロケットはそのぶん重くなります。重くなったロケットを同じ速さまで加速するには、さらに燃料が要ります。その追加の燃料もまた重さになるので、もっと燃料が要ります。NASA の解説で紹介されている JPL の研究者ケビン・ピーター・ハンドさんの言葉を借りれば、上に向かうものには燃料が必要で、燃料を上に運ぶなら、その燃料を持ち上げるための燃料も必要になる、ということです。宇宙開発の世界では、この逃れられない関係を「ロケット方程式の暴政(tyranny of the rocket equation)」と呼んでいます。

この雪だるまがどれほど大きくなるかを、NASA の入門解説の計算例で見てみます。液体水素と液体酸素を使う効率のよいエンジンを想定し、軌道に必要な速さを出そうとすると、燃料を満タンにしたロケットの重さは、燃料を使い切ったあとの重さの約10倍になる、という結果になります。同じ式で計算すると、目標の速さが2倍になった場合、この倍率は10倍から100倍に跳ね上がります(編集部の計算)。速さを「少しだけ」上げることが、燃料の量にとっては「少しだけ」では済まないのです。

Figure

満タンの重さは、空のときの何倍?(NASA の計算例)

  • 軌道に必要な速さを出す場合約10倍
  • 目標の速さを2倍にした場合約100倍
速さを2倍にするだけで、必要な燃料の割合は10倍に跳ね上がります(2倍の場合は編集部の計算)。

身近な乗り物と比べると、その厳しさがよく分かります。ハンドさんは自動車でたとえています。ガソリンは1ガロン(約3.8リットル)あたり約2.8kgで、ふつうの車のタンクには約35〜42kgのガソリンが入ります(ポンドからの換算は編集部)。もし車がロケットと同じ法則に縛られていたら、車体と乗っている人や荷物を合わせた重さは、よくても6〜7kg程度に抑えなければならない計算になるといいます。実際の車は約1.5〜1.9トンあります。地面の上を走る車と違い、ロケットは重力に逆らって上昇しながら、軌道に必要な猛烈な速さまで加速しなければならないからです。

では、燃料を減らす方法はないのでしょうか。カギの一つはエンジンの「燃費」です。ロケットは、燃やしたガスを後ろへ勢いよく噴き出し、その反動で前へ進みます。同じ1kgの推進剤でも、ガスを速く噴き出せるエンジンほど、強く長く機体を押すことができます。この燃費の良さを表す数字が「比推力(ひすいりょく、Isp)」で、単位は「秒」です。NASA は、比推力が高いエンジンほど同じ量の推進剤でより大きな推力を生むため効率がよい、と説明しています。先ほどの計算例でも、液体水素と液体酸素のエンジンとして約350秒という値が使われています。燃費がわずかに良くなるだけでも、雪だるまが逆向きに働き、必要な燃料はぐっと減ります。

もう一つのカギが、ロケットを段に分ける「段分離」です。NASA によると、多くのロケットは上昇を始めて数分後に機体の一部を切り離し、多くの場合、そこで上の段のエンジンに点火します。燃料を使い切った大きなタンクと、もう役目を終えた重いエンジンをいつまでも運んでいては、そのぶんの燃料がむだになります。空になった入れ物を捨てて身軽になれば、上の段は小さなロケットとして、雪だるまを最初からやり直すことができます。Falcon 9 も Starship も、この考え方による2段式のロケットです。切り離しの具体的な方法は、展示「段分離」で紹介しています。

Figure

段分離で身軽になる

  1. 1段目が燃料を使って加速する

  2. 空になったタンクとエンジンごと切り離す

    使い終わった重い入れ物を、それ以上運ばなくて済む。

  3. 軽くなった上の段が、加速を続ける

    小さなロケットとして、雪だるまを最初からやり直せる。

Why it matters

なぜ重要か

ロケットの再使用が難しい理由も、ここにあります。機体を地上や海上へ帰すには、帰り道で減速するための推進剤を、タンクに残しておかなければなりません。FAA(米連邦航空局)が2025年4月にまとめた Starship の環境評価では、計画中の改良型について、推進剤の量を上段の Starship で最大2,650トン、1段目の Super Heavy で最大4,100トンとしています。そのうえで、沖合の海上に着陸する場合、Super Heavy には最大約74トン、Starship には最大約101トンの推進剤が残る見込みだとしています。割合にすると、Super Heavy で約1.8%、Starship で約3.8%です(編集部の計算)。荷物が全体の数%しかないロケットにとって、この「帰りの燃料」は決して小さくありません。

Figure

着陸のために残す推進剤(計画中の改良型 Starship)

  • Super Heavy に積む推進剤(最大)4,100トン
  •  うち着陸用に残る分(最大)約74トン
  • 上段 Starship に積む推進剤(最大)2,650トン
  •  うち着陸用に残る分(最大)約101トン
出典:FAA の環境評価(2025年4月)。沖合の海上に着陸する場合の見込みです。

Falcon 9 の1段目の着陸場所も、燃料の取り合いで決まります。報道によれば、重い荷物を高い軌道へ運ぶ打ち上げでは、1段目が速く、遠くまで進みすぎるため、発射場へ引き返すには燃料が足りなくなります。そこで、進行方向の先の海上で待つ無人の船(ドローンシップ)に降ります。海上への着陸は、燃料の余裕という点では楽になる一方、技術的にはより難しいとも伝えられています。帰還の具体的な手順は、展示「再使用ロケットの仕組み」で紹介しています。

Starship は、1段目だけでなく上段まで含めた機体全体の再使用を目指しています。SpaceX は、完全に再使用する場合でも、100トン以上を軌道へ運べるとしています。上段は軌道まで上がるので、上段に残しておく帰りの燃料や、帰ってくるための装備は、そのまま軌道まで運ぶ重さになります。編集部の見方では、ロケット方程式の厳しさを考えると、機体全体を帰しながら大きな荷物を運ぶという目標の難しさと、それに挑む意味の大きさの両方が見えてきます。

ロケット方程式の暴政をかわす、もう一つの発想が「軌道上での燃料補給」です。NASA によると、SpaceX は月着陸船として使う Starship について、地球の周りの軌道上で推進剤を積み込み、満タンの状態で月へ送り出す計画です(2024年11月時点の説明)。地上からすべての燃料を一度に持ち上げるのではなく、軌道でいったん雪だるまをリセットする、という考え方です。くわしくは「宇宙で燃料を補給する」の記事で解説しています。

Compared

他との違い

「燃料」と「推進剤」は、厳密には同じではありません。飛行機のジェットエンジンは、燃料だけを積み、燃やすための酸素はまわりの空気から取り込みます。ところが宇宙には空気がないので、ロケットは酸素(酸化剤)も液体にして自分で積んでいく必要があります。燃料と酸化剤を合わせたものが推進剤で、ロケットが重くなる理由の一つは、この酸化剤まで運んでいることにあります。Starship の場合、推進剤は過冷却した液体メタンと液体酸素で、これを燃やすのが Raptor エンジンです(SpaceX)。

「推進剤の割合が大きい」ことと「性能が悪い」ことは別です。大切なのは、最終的にどれだけの荷物を軌道へ届けられるかです。NASA の単純な計算例では荷物は打ち上げ時の重さの約1%でしたが、Falcon 9 の公表値では約4%です。段を分ける、燃費のよいエンジンを使う、構造を軽くするといった工夫を重ねることで、同じ物理の法則の中でも運べる荷物の割合を少しずつ広げてきたのが、ロケット開発の歴史だといえます(編集部の見方)。

FAQ

よくある質問

燃料を2倍積めば、2倍速く飛べるのですか?

いいえ。燃料を増やすとロケット全体が重くなり、その重さを加速するためにも燃料を使うため、速さは燃料の量に比例して伸びません。NASA の入門解説の式で計算すると、目標の速さを2倍にするには、満タンと空の重さの比を10倍から100倍にする必要がある、という例になります(編集部の計算)。

段に分けずに、1つの大きなロケットで軌道へ行けないのですか?

理屈の上では考えられますが、空になった大きなタンクや重いエンジンを最後まで運ぶことになり、そのぶん荷物を減らさなければなりません。そのため、軌道へ向かう多くのロケットは途中で使い終わった段を切り離しています。NASA も、多くのロケットが上昇の数分後に機体の一部を切り離すと説明しています。

比推力の単位が「秒」なのはなぜですか?

比推力は、推進剤の重さあたりにどれだけの推力を生むかを表す数字で、計算の都合で単位が「秒」になります。中身としては「燃費」の目安と考えて差し支えありません。数字が大きいほど、同じ量の推進剤でより大きな推力を生む、効率のよいエンジンです(NASA)。

着陸用の燃料は、どれくらい残しておくのですか?

機体やミッションによって違います。FAA の2025年4月の環境評価では、計画中の改良型 Starship について、沖合に着陸する場合、Super Heavy に最大約74トン、上段の Starship に最大約101トンの推進剤が残る見込みとしています。Falcon 9 については、ミッションごとの着陸用燃料の量は公式には確認できていません。

Sources / 出典

  1. 01
    Falcon 9(SpaceX)(外部サイト)

    SpaceX · 公式 · 一次情報 · 参照 2026.10.02

  2. 02
    Starship(SpaceX 公式ページ)(外部サイト)

    SpaceX · 公式 · 一次情報 · 参照 2026.09.30

  3. 03
  4. 04
  5. 05
    Basics of Space Flight Chapter 14: Launch(NASA Science)(外部サイト)

    NASA · 宇宙機関 · 一次情報 · 参照 2026.10.02

  6. 06
  7. 07
  8. 08
    NASA, SpaceX Illustrate Key Moments of Artemis Lunar Lander Mission(NASA)(外部サイト)

    NASA · 宇宙機関 · 一次情報 · 2024.11.20 · 参照 2026.10.02

  9. 09
    SpaceX lands rocket on ocean-going drone ship(Spaceflight Now)(外部サイト)

    Spaceflight Now · 報道 · 2016.04.08 · 参照 2026.10.02

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